オーム社オンラインスクール講座「基礎力養成コース 電験三種 電気数学」で講師を務める川尻 将 先生。
月刊誌『新電気』連載「電子回路どうでしょう」の執筆や、電験受験対策のオンライン講師としても活躍する川尻先生に、ご自身のプロフィールと、電験三種資格取得に向けた勉強法、そしてご担当いただいた講座に込めた想いを伺いました。
得意分野を伸ばし、京都大学へ進学
ーーーまずは川尻先生のプロフィールについて教えてください。
川尻 出身は三重県で、松阪牛で有名な松阪市と、伊勢神宮で有名な伊勢市の間に位置する明和町というところです。高等専門学校(高専)に進学して、電気情報工学科という学科で情報関係の勉強をしていました。
高専に進学した理由は、中学の時に文系・理系を選択するときに国語と社会が圧倒的に苦手で・・。テスト勉強で苦労したので、普通の進学校に行くより得意な分野を伸ばそうと考えたからです。
あとは、当時柔道に打ち込んでいて、高専なら部活も続けられると思ったことも理由です。最終的に柔道では、全国高等専門学校柔道競技の個人軽量級で準優勝という実績を残すことができました。
ーーー高専から京都大学へ編入されたとのことですが、どのように進路を決めたのでしょうか。
川尻 学科の3分の1くらいの学生が、卒業後に大学へ進学するのですが、私も自分自身がどこまでできるのか試したくて、京都大学を受験しました。
高専からの編入は少し特殊で、通常の受験だと共通一次から試験を受けますが、高専からの場合は共通一次がなくて大学によって試験日が違います。
あとは、大学3年次に編入されるので、数学だと微分方程式と行列に関する計算など、大学1~2年次で習う分野が出題された記憶があります。
ーー大学3年次からの編入だと、学生生活はどんな感じなのでしょうか。
川尻 認定単位をもらって大学3年次に編入されるのですが、単位が大学1年次での修了分くらいしかもらえなくて、これでは1年分足りないぞ…まずいな…という状態でした。
私が編入した電気工学科は、4年次は研究が中心になるので、3年次までに卒業単位を取得していないと研究室に配属してもらえません。研究室に配属されないと、大学院へ進学できないので、単位取得のため日々の講義を必死になって受講していました。
原子時計の研究に取り組んだ大学生活
ーーー大学ではどのような研究をされていたんですか?
川尻 原子時計の開発に関する研究をしていました。
原子時計の研究をしようと思ったのは、「量子エレクトロニクス」に興味を持ったことがきっかけです。
原子時計がどのようなものか、電池時計など時計の親玉だと考えていただくとわかりやすいかもしれません。時間を計測するためには、一定の間隔で揺れるものが必要になります。例えば振り子時計の場合、大きな振り子が揺れてますよね。電池時計も同じ原理で、電池の動力で水晶でできた振動子を振動させ、時間を計測しています。
1 秒間に揺れる回数が多ければ多いほど 1 秒の精度が上がります。 1 秒 で揺れが20 回だったら 0.1 秒まで計測できますし、 100 回だったら 100 分の 1 秒になります。こうして揺れをどんどん速くしていくと、精度の高い時計を作ることができます。
原子時計の仕組みは、原子を細かく振動させて、その振動の周期を安定化することで、非常に精度の高い1秒を決めるというものです。
GPSなどの衛星測位システムでは、衛星から電波を送って跳ね返ってくるまでの時間を計測して、距離がどのくらいかを計算しています。衛星測位システムと原子時計を組み合わせることで、測位の精度を高めることが可能になります。
世の中にある原子時計よりも、原子をもっと早く振動させて、精度が高いものを作る研究を大学院の修士課程まで行っていました。
社会人として電源系の設計に携わりながら電験三種・電験二種試験に合格!
ーーー大学院を卒業した後、メーカーに就職をされたと伺いました。
川尻 MRI医療機器メーカーに就職しました。MRIは、体の中の水を振動させて振動の周波数で体のどの部位の信号かとを識別することができる仕組みです。原子時計の研究と「振動」という点が共通していることに興味を持ちました。
あとは、電界や電気には大学での実験で触れた経験があるのですが、磁気にはあまり触れたことがなかったので、本を読んだだけではわからないことを実体験として学べるのではないかと思い入社を決めました。
入社後は、電源系の設計に11年間携わりました。担当した業務は電磁気とあまり関わりがなかったのですが、システムを駆動するための電源制御や安定的な稼働、システムを動かすために電力的にどのくらいの容量がいるかなど様々な分野の情報を束ねて、電源の設計を行っていました。
社内にはパワーエレクトロニクスや自動制御、機構設計など様々な専門分野のスキルを持つ方が集まっていたので、それぞれが持つ情報の橋渡し役になり最終的に製品を作り上げることができるように、各分野の勉強をしていました。最終的にはマネジメントをしていたのですが、日々試行錯誤でした。
ーーー川尻先生が電験三種を取得したきっかけは何だったのでしょうか。
川尻 社会人生活は充実していたのですが、特に人を育てる仕事にとてもやりがいを感じていました。しかし、会社に属しながら人材育成のために関わることができる人数は、おそらく定年まで勤め上げてもせいぜい100人くらいかなというように、先が見えてしまったんですね。
そこで、より多くの人と関わりたいという想いと、教育に専念できる環境を求めて独立を決意しました。
当初はこれまでの経験を活かして、電気回路技術者が勉強できる教材などを作りたいと思ったのですが、インターネットなどで情報収集をしても、独立してご飯を食べていけるほどの規模のコミュニティやマーケットが存在していませんでした。
そこで、数ある試験の中でも難易度が高く、関わる人も多い電気主任技術者試験に注目しました。「電験講師」という肩書が、自分の名刺代わりになるという期待もありました。
電験に関してそれまで勉強をしたことがなかったので、独立を決めてから試験勉強を始めました。「資格試験なんて過去問を覚えれば楽勝じゃん?」と思っていた人間だったのですが、電気工事士の過去問を一通り解いてから電験の過去問に取り掛かると予想以上に大変で、一筋縄では合格できない試験だなと思いました。
在職中に試験勉強を始めて、2020年に電験三種と電験二種に合格しました。
試験勉強を継続するポイントは、勉強に集中できるように「生活のリズムを整える」こと
ーーー在職中に、月40時間以上残業をこなしながら月100時間以上の学習時間を捻出されたと伺いましたが、どのように勉強をされたのですか?
川尻 テキストと問題集を購入して、あとは初心者向けの専門書を適宜購入しながら勉強しました。主に仕事が終わって帰宅した後に、机に座って勉強をしましたが、通勤は車だったので、通勤中に勉強はできませんでした。
勉強の進め方については、私の場合「今日は〇時間勉強しよう」とか「今日は〇ページまで勉強しよう」と決めても、なかなかうまくいきませんでした。
社会人になると残業が少ない時期もあれば多い時期もありますし、家族がいれば様々な状況が発生するので、目標を決めて勉強することはかなり大変です。
そんな時に、自分はダメだとか、何とかしなきゃと思うのではなく、勉強ができなかった時は「なぜ勉強ができなかったんだろう」と一度考えてみることが重要です。
眠くて勉強できないのであれば、我慢せずに寝た方がいいです。この場合は「なぜ眠くなってしまうのだろう」と考えると、解決策が見えてきます。
家に帰ってリラックスしてしまうと、勉強したくなくなりますよね。さらに、ご飯を食べてお風呂に入ってしまったら、もう寝たい気分ですよね。
そこで、私は帰宅後に勉強に集中できるよう、生活のリズムを整えることを心がけました。
あまりリラックスしすぎないように夕食を少なめにし、ご飯は食べないでシャワーだけ浴びて勉強すると、仕事のテンションが持続するので勉強が捗ります。夕食を少なくする分、翌日は朝食をしっかり食べて、楽しむようにしていました。
このように生活のリズムを整えた結果、平日は2時間程度の勉強時間を作り、土日のどちらかは家族サービスに充て、もう片方の曜日は午前中だけ勉強することができました。
試験に合格するためには「ここまでやる」という最低ラインと、厳しめのペナルティも効果的
ーーー生活習慣以外で、工夫をされたことはありますか?
川尻 日本人の気質にあっている方法だと思うのですが、「いつまでに何をする」と目標を決めるのではなく、「いつまでにこれだけはやっておく」という最低ラインと厳しめのペナルティを設定する方法があります。
私の場合は独立を考えていたので甘い気持ちで勉強に取り組んでいなかったのですが、もし試験に合格できなかったら独立を諦めようと決めていました。
私が電験三種の勉強を始めたのは2020年の2月で、試験は9月でした。4科目をそれぞれ2ヶ月勉強するスケジュールだと、試験に間に合いません。とにかく「過去問を解けるようになるレベル」を目指し、まずは機械科目の勉強を1ヶ月半で終わらせて、その後はもう機械の勉強はやめて他の科目の勉強に移り他の科目の勉強に着手しました。
抽象的な目標は計画を立てるのも実行するのも難しく、いざ実行しようとしても、想定していたレベルより難しいこともあるので、テキストの〇~〇ページまで勉強すると決めるより、追い込まれた方が何とかなりますよ。
ーーー普段の生活で自分を追い込むのは大変そうですね。
川尻 確かにその通りかもしれません。しかし、私の講師としての経験上、合格できる人とできない人ははっきり分かれています。「言われたからやる人」はなかなか合格できません。会社が補助金を出してくれるけど、勉強する時間がとれないという話をよく耳にします。
でも、資格を取らないと職場に居られない「やらなければいけない人」は、必死で勉強して、試験に合格します。
そこまで状況を追い込めない方にとって、一番手軽な方法は「身銭を切る」ことです。イベントも、前売券を買ったら観に行きますが、無料招待券だと観に行かなかったりしますよね。
人間は損をしたくない生き物なので、何かしら勉強のためにお金を払うことで、試験に不合格=損をしないために勉強せざるを得ない状況にしてもよいのかもしれません。
電験三種試験に合格したメリット
ーーー川尻先生にとって、電験三種試験に合格したメリットは何でしたか?
川尻 私の場合は独立しているので、会社での昇給やキャリアアップといったメリットはなかったのですが、電験を取得してからは、電気に対しての見方が豊かになりました。
例えば、電柱など今まで気に留めなかった街中の構造物が意味のあるものとして見えるようになりました。また、学生時代の通学路に日本初の事業用水力発電所「蹴上発電所」があったのですが、当時は知らずに通り過ぎていました。今では非常に後悔しています。
講座の特長は、ホワイトボードを使った丁寧な講義
ーーー今回ご担当された講座「基礎力養成コース 電験三種 電気数学」の特長を教えてください。
川尻 動画で学ぶメリットは、情報が目と耳から入ってくることです。本の場合、目からしか情報が入ってきませんが、動画であれば目だけでなく耳からも情報が入ってきます。
インプットの経路が増えると、記憶の定着がしやすいですし、目で見る情報よりも耳で聞く情報の方が記憶や処理、理解をしやすい方もいらっしゃるので、ご自身の特性にあわせて受講を検討いただくとよいと思います。
そして、この講義では意識的にホワイトボードを使って計算式を解くようにしています。
おそらく、学校や社内研修など皆さんの学習経験のほとんどは、黒板(またはホワイトボード)を使う形式だったはずです。「黒板の前で講師が動いて立っている」講義形式だと、受講生は無意識のうちに勉強モードに没入できます。
さらに、数学は流れが大事なので、最初の式と答えだけを覚えても、あまり意味がありません。答えにたどり着くまでの全ての情報をまとめて覚えるより、なぜその順番で式が変化していくのかという流れがとても重要です。
ホワイトボードで式を展開し、一個一個の式を書く間に、なぜこの式になるのかということを丁寧に説明して、受講生の電気数学に対する理解がより深まるよう心がけました。
受講をすすめる際は、苦手な感覚が消えるまで遡ってみることが大事
ーーーどのように講座の受講をすすめればよいのでしょうか?
川尻 まずは最初の章から順を追って動画を視聴してみましょう。もし、動画を視聴してわからない部分があったら、1つ前の章や単元に戻ることを意識してください。
例えば、動画で複素数を使った公式が出てきて、その公式が嫌な感じだなと思ったら、前の単元(ベクトル)に戻る。そこでもよくわからなかったら、さらに前の単元に戻りましょう。
嫌な感じというのは、自分の中で理解が不十分だというサインです。
なぜ1つ前に戻るのかというと、大人が勉強する時に、まったく新しいことを学ぶという状況は少なく、学生時代に積み残したことが引っ掛かったままというケースがほとんどです。
小学校の時は苦手意識はなかったのに、中学になるとたまに苦手を感じる。そして、そのまま高校に進学すると、もう勉強についていけなくなる。そのうち、勉強ってそういうものだなと勘違いしてしまうのです。
その感覚をなくさないと、次のステップに進むことができません。
ーーー苦手意識がなくなるまで、1つずつ遡っていくイメージですね。
川尻 以前、私が個人指導をした生徒さんで、電験二種受験に必要な微分積分が苦手だと自己申告された方がいました。その方は電験三種は過去問をひたすら解いて、解き方を暗記して合格しているんです。解き方をたくさん暗記して合格したけれど、電験二種ではそれがだんだん辛くなってきた。
指導をしてもなかなか理解がすすまなかったのですが、苦手な部分をどんどんさかのぼっていくと、そもそも「分数の中に分数がある場合の計算」が苦手だということに気づきました。
そこで、2週間ほど分数の処理に関する計算問題を集中的に講義したところ、苦手を克服することができました。
「基礎力養成コース 電験三種 電気数学」では、講義をしながら適宜アドバイスのコメントを入れているので、「ここは大事ですよ」と私が言っているポイントがすこし難しいなと感じたら、素直に1つ前の単元に戻って学びなおしていただくとよいでしょう。
講義を一通り受講した後に、問題をたくさん解きたい方は、講義で使用したテキストの中にも豊富に問題を収録しています。私も問題集を出していますので、こちらもご活用ください。
電験三種試験に合格することで、人生のモヤモヤが晴れて「いい顔になる」
ーー最後に、この講座を受講されるみなさんへのメッセージをお願いします。
川尻 独学の場合、本を読む勉強法は、普段勉強をやり慣れてない人にとってはハードルが高いかもしれません。「本だけで合格できました」という方もたくさんいらっしゃいますが、これはすでに勉強の仕方を知っていたり、勉強に慣れている人の事例です。
本だけだとどうしても勉強が辛いという方に、このeラーニング講座はおすすめです。
また、電験の講師をしていて、試験に合格された方を見ていると、電気主任技術者になるかどうかに関わらず、みなさんとてもいい顔になります。
合格の達成感や、人生についてのモヤモヤが晴れて転職・独立など人生の見通しが具体的についた自信、合格後に色々なことに取り組みたいという意欲が、顔に表れるのだと思います。
さきほど、勉強を続けるために大切なことは、無理をしないことだというお話をしました。
電験三種の試験勉強に取り組む中で、どうしても辛い部分があるという方は、「なぜ辛いのか」を少し考えてみて、その原因が電気数学であれば、この講座からリスタートしていただくとよいかもしれません。
この講座を通じて、みなさんの電験三種合格のサポートができれば幸いです。
ーーーありがとうございました。
川尻 将 kawajiri Sho
京都大学大学院卒業後、キヤノンメディカルシステムズ株式会社にてMRI装置の電源開発職に従事する傍ら2020年に電験三種・二種を初受験&同時合格。現在は電験向けオンライン講師として活動中。月刊誌「新電気」で2022年より「半導体どうでしょう」(現在は「電子回路どうでしょう」)を連載中。
川尻先生が講師を務めるオーム社オンラインスクール講座
基礎力養成コース 電験三種 電気数学
電気数学とは、電気回路や電気磁気学など電気の計算をするときに使われる数学の総称で、電験三種試験の「理論」「電力」「機械」「法規」各科目で出題される計算問題を解くために必須の知識です。
この講座では、オーム社のロングセラー書籍「完全マスター電験三種受験テキスト 電気数学」をテキストとし、電験三種に合格するために必要な内容に絞った講義動画を収録。
電験三種だけでなく電験二種で使用する数学の知識までカバーしているテキストの中から、電験三種試験合格に必要な部分を短時間で集中して学習できるよう、重要な分野のみ解説。さらに、例題・練習問題の解説では、ホワイトボードを用いて計算式を丁寧に展開し、問題の解き方のポイントを紹介しています。
講座で使用するテキストは「完全マスター電験三種受験テキスト 電気数学(改訂2版)」です!
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