オーム社オンラインスクール講座「基礎力養成コース 電験三種 電気数学」で講師を務める川尻 将 先生が第3種電気主任技術者試験の難易度を解説します。
はじめに
インターネットで電験三種について調べてみると
「電験は難しい」
「大学院卒でも一発合格できない」
「高校生が合格した」
「電験は昔に比べて簡単になった」など
様々な意見があって、これから勉強を始めようと考えている方はどれを信じればいいか分からないのではないでしょうか。
少しでもそのモヤモヤが晴れればいいと思い、今回は電験三種の難易度についてお話しします。
なぜ「合格率10%」なのか?
電験三種の合格率を調べてみると、令和3年までは10%程度となっています。
10人受験して1人しか合格できないと考えると難しい試験だと感じますね。
「マークシートの五肢択一方式」の試験で、「科目合格制度」もあるのだから
いくら難しい試験だと言ってももう少し合格率が高くなりそうだと思いませんか?
電験三種には「合格率10%」になってしまうからくりがあり、その理由を2つ紹介します。
1つ目の理由は「試験範囲の広さ」です。
学生時代の試験勉強の仕方を思い出してみてください。
試験の1、2週間前に試験期間が設定され、その期間は勉強に専念しましょうという風習があった方は多いのではないでしょうか?
多くの方はこの試験期間を利用して試験対策を行い試験に臨むというのが一般的だと思います。
その経験があるため、試験直前に目いっぱい詰め込むのが試験勉強だという認識が強い受験生が非常に多いと感じています。
実際、このような勉強方法で合格できる資格試験も世の中には多く存在します。
しかし、電験はこれではうまくいきません。
なぜなら、電験は試験範囲がとても広いからです。
前回の記事では各科目では、以下のようなテーマを扱いますと書きました。
これは大枠です。
細かくみていくと、なんと200以上の単元に分けることができます。
さらに試験範囲の広さのイメージを掴むため、電験三種の教材のページ数を見てみましょう。
例えば、オーム社の「やさしく学ぶシリーズ」は各科目400ページ程度。
同じくオーム社の「完全マスター電験三種シリーズ」は各科目500ページ程度となっています。
電験三種4科目だと、4倍の1600ページから2000ページ程度の知識が必要になるということが分かります。
これだけのボリュームの情報量を1~2週間で詰め込むことは現実的に不可能で
電験に合格するためには長期の継続的な学習が必要であるということが分かります。
2つ目の理由は「試験問題の豊富さ」です。
実は、電気技術者試験センターからは下記のような問題作成方針を公表されています。
(1)「理論」:電気に関する基本物性や計測技術に関する理解と分析力を問う。
令和6年度第三種電気主任技術者試験に係る問題作成方針より抜粋
(2)「電力」:電気エネルギーの生産から流通までの広範な技術的知識とその応用力を問う。
(3)「機械」:電気エネルギーの利用、電気機器、通信や情報処理等に関する
広範な技術的知識とその応用力を問う 。
(4)「法規」:重要社会インフラである電気工作物とその保安について、その計画・設計・ 建設・管理に
必要な法令・技術基準等に関する知識とそれらに基づく的確な判断力を問う 。
この方針から電験三種は公式に値を当てはめれば答えが出せるという問題はほとんど出題されません。
問題を読み取る力、式を立てる力、計算力、こういった能力をうまく使わないと答えにたどり着くことができず
電気の知識があっても初見では解けない、応用力や判断力が問われるような問題がたくさん出題されます。
従って、電験独自の問題に対応できるように、過去問を使って学習をすることになります。
過去問を使って解き方を覚えしまえばいいのなら、試験直前の詰込みでもなんとかなりそうと思うかもしれません。
実は、ここに電験特有の大きな大きな落とし穴があるのです。
他の資格試験でも過去問を使った学習は重要であり、電験に限った話ではありません。
電気工事士の筆記試験であれば、過去問を5年分も解けば、ある程度解法のパターンを掴むことができます。
しかし、電験三種は過去問を5年分解いても、同じような解き方で解ける問題がほとんどありません。
電験三種の解法のパターンを掴むためには少なくとも10年分は過去問をこなす必要があります。
問題数にすると、例えば理論科目であれば18問×10年分=180問となります。
さらに4科目受験するとなると、問題数はさらに増え10年分で約660問となります。
これだけの問題を1~2週間で解き切るには、十分な知識と計算力が前もって必要になります。
従って、電験の試験問題の豊富さに対応するためにも、長期の継続的な学習が必要であるということが分かります。
すなわち、電験とは長期の継続的な学習を成し遂げた人だけが合格できる試験であり
それができる人は統計的に受験者の10%程度であるということになります。
視点を変えると、学習を継続することができれば受験生の10%の枠に入ることができ
合格を掴み取ることができるのが電験だということです。
電験三種は簡単になった?
令和3年度から一部の問題で古い過去問がそのまま流用されるようになりました。
令和4度年からはこれまで年に一回だった試験が上期(8月)、下期(3月)の年二回に更新されました。
さらに、令和5年度からはCBT方式が追加されました。
CBT方式での受験の場合、約4週間の指定期間の中から、受験日時を自由に設定できるようになりました。
直近の令和5年度下期の筆記試験は過去問の流用や小変更が非常に多く、合格率は過去最高の21.2%となりました。
この数値だけ見ると、電験三種は簡単になったと結論づけてよいと思います。
ただ、講師として、これから電験三種を受験する方にお伝えしたいのですが
古い過去問の流用のおかげで合格できたのは元々努力していた受験生だけだ
ということです。
試験問題の多くが過去問の流用になったことで、極端なことを言うと
過去問の問題と解答を丸暗記してしまえば合格することができます。
問題に対する知識や計算力がなくても、特徴的な文章または図からどの過去問かを見極めて
その問題の解答を選択肢から選べばいいわけです。
先に紹介した教材をじっくり読んだり、数学を復習して計算力をつけるような学習をしなくても
過去問を見て覚える作業に専念すれば合格できるという戦術が可能になったわけです。
「過去問を覚える」=「電験三種に合格」
という非常にシンプルな構図ができたように感じます。
しかし、この学習方法は非常に険しく過酷な道なのです。
令和三年度から令和五年度下期の試験問題のうち
流用された過去問の範囲を分析すると、過去25年の範囲から再利用されています。
先にお伝えしたとおり、これまで電験三種は試験問題が豊富であるため
過去25年の試験問題は1つとして全く同じ問題はありません。
過去問の問題と答えを覚えることに徹底すると、似ている問題だとしても関係なく別々に覚える必要があり
25年分の過去問を問題と答えを全て詰め込む必要があります。
25年分の問題数は例えば理論科目であれば25年×18問=450問となります。
(※2002年以前は問題数が13問ですが、ここでは割愛します)。
自分のこれまでの人生を振り返って、450個の文章や図を暗記したがあるでしょうか?
私は大学受験でもそんなにたくさんのことを暗記しませんでした。
というか、450個なんて暗記できなかったです。
まとめ
これから電験を受験してみようと考えている方は、過去問を丸暗記する学習は避けて
まず分からないところを分かるようにするために基礎からコツコツと積み上げていく学習から始めてください。
試験が近づいてきて、どうしても理解できない問題や出題されそうな問題の答えをそのまま覚えるくらいなら
それは効果的な作戦だと思います。
「過去問の丸暗記」は最後の隠し玉として懐にしまって、普段は教材を使ってコツコツと積み上げをしていきましょう!
川尻 将 kawajiri Sho
京都大学大学院卒業後、キヤノンメディカルシステムズ株式会社にてMRI装置の電源開発職に従事する傍ら2020年に電験三種・二種を初受験&同時合格。現在は電験向けオンライン講師として活動中。月刊誌「新電気」で2022年より「半導体どうでしょう」(現在は「電子回路どうでしょう」)を連載中。
川尻先生が講師を務めるオーム社オンラインスクール講座
基礎力養成コース 電験三種 電気数学
電気数学とは、電気回路や電気磁気学など電気の計算をするときに使われる数学の総称で、電験三種試験の「理論」「電力」「機械」「法規」各科目で出題される計算問題を解くために必須の知識です。
この講座では、オーム社のロングセラー書籍「完全マスター電験三種受験テキスト 電気数学」をテキストとし、電験三種に合格するために必要な内容に絞った講義動画を収録。
電験三種だけでなく電験二種で使用する数学の知識までカバーしているテキストの中から、電験三種試験合格に必要な部分を短時間で集中して学習できるよう、重要な分野のみ解説。さらに、例題・練習問題の解説では、ホワイトボードを用いて計算式を丁寧に展開し、問題の解き方のポイントを紹介しています。
講座で使用するテキストは「完全マスター電験三種受験テキスト 電気数学(改訂2版)」です!
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投稿者プロフィール
- オーム社オンラインスクール「基礎力養成コース 電験三種 《電気数学》」「電験三種合格 直前ゼミナール」講師。京都大学大学院卒業後、キヤノンメディカルシステムズ株式会社にてMRI装置の電源開発職に従事する傍ら2020年に電験三種・二種を初受験&同時合格。現在は電験向けオンライン講師として活動中。月刊誌「新電気」で2022年より「半導体どうでしょう」(現在は「電子回路どうでしょう」)を連載中。
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